マインドフルネスの話

気分が明るくなるマインドフルネスな視覚集中法

これといった理由はないけれど、なぜか気持ちが落ち込む。なにもやる気がでない…。心が風邪を引いたように、気持ちが沈んだ状態になることは、だれしもがあるものです。

うつ病の患者さんがよくいう言葉の一つに「周囲の景色が色を失ったように感じられる」というものがあります。精神のエネルギーが枯渇すると、実際に存在するはずの色を感じる力さえもなくなってしまうことがよくわかります。

この人間の心と視覚の仕組みを逆に利用して、心を元気づける方法があります。それが、「マインドフルに物を見る」という手法です。

まず、近所の公園に出かけ、気に入った風景があったらそこに立ち位置を定めます。次に視覚に集中して、目に移りこんだものの色をひとつずつ、心の中でつぶやいていきましょう。ポイントは、できるだけ詳しく色を表現すること。木々だったらただの「緑」ではなく、「夏らしい濃くて力強い緑」。空だったら「青」ではなくて、「高いところほど濃い青で、低くなるほど徐々に透明感のあるペールブルーになっている」といったイメージです。

禅語に「泉声中(せんせいちゅう)夜後(やののち) 山(さん)色(しょく)夕陽(せきようの)時(とき)」という言葉があります。「泉が湧き出るかすかな音を楽しめるのは、静寂に包まれる夜更けどき。山の景色が最も美しいと感じるのは、夕日が西の峰にゆっくりと沈むとき」―-つまり「この世界の本当の美しさに気付くには、心が穏やかで澄み切っていなくてはならない」というメッセージが込められています。

何気なく見過ごしている私たちの周りの美しさをマインドフルに集めることで、心のエネルギーを回復させる一助としていただければ幸いです。

※治療が必要な重いうつ状態のときには、マインドフルネスをおこなうこと自体が難しい、あるいは症状を悪化させる可能性があるために避けた方が良い場合もあります。判断に迷われた際は、精神科や心療内科の医師に助言を求めるようにしてください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医