マインドフルネスの話

「注意という贈り物を相手に与える」マインドフルネス傾聴法

「なぜか周りから信用されない…」「人間関係を深めることが苦手」など、オフィスで信頼関係を高めたり、親しい友人を作ることができない、という悩みを持っている人に、ぜひ知っていただきたい言葉があります。それは、「注意という贈り物を相手に与えることこそ、最高の傾聴」ということ。良好なコミュニケーションをするうえで、何よりも大切なことは「あなたの話を、私はとても集中して聞いています」という意思表示そのものなのです。

人は「自分に対して十分な注意が払われている」と感じとったとき、その相手に対して大きな信頼感を即座に抱くものです。特に、相談事をしているときにはそれが顕著です。話の内容に集中をして「マインドフルに聴く」姿勢が、相手をいやし、心を開いてもらう大きな要因となるのです。

このとき、相手が話し終わったときや会話の切れ目に、それまでの相手の話を要約して伝えてあげると、「私はあなたの話をよく理解しています」というメッセージになり、より相手の信用度を高めることができるでしょう。

このときに、注意すべきなのが「共感はしてもよいけれど、同情はしない」ということ。辛かった話をされたときに、「それはひどい!その人は本当に嫌な人ですね!」と相手になりかわるように同情してしまうと、相手も自分もますますネガティブな感情に取り込まれてしまいます。「そうでしたか。あなたは本当に辛かったのですね」と、相手の感情をそのまま言葉にして置き換えて共感を示すに留めましょう。
共感を示すだけで、相手のネガティブ感情は軽減されて、あなたへの信頼が育まれることでしょう。

間違っても相談話をされたとき、ぼんやりとしていたり、適当な相槌をうたれたり、ましてや全否定などはしない方が賢明です。話の途中で相手の言葉をさえぎって、「基本的にそういう時はこうしたほうがいいに決まっているでしょう」と、いわゆる「正論」で返すことも、相手にとっては「聴いてくれていない」「理解しようとしてくれていない」態度になっている可能性があります。相手があなたに対して心を開いて、自然体でコミュニケーションを取れると思えるようになるための、ちょっとした心がけが大切なのです。

人と信頼関係を結ぶための第一歩として「マインドフルネス傾聴法」をぜひ、実践してみてください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医