マインドフルネスの話

他者を思いやれる「共感性」を養う

「ふと気が付いたら、部下や同僚がついてきていない」「なぜかいつも自分勝手なふるまいをしてしまう・・・」
わざとではないけど、周囲への配慮ができていなかったり、相手の気持ちをはかることが苦手で、仕事や人間関係がうまくいかない、というケースは少なくありません。

人の感情や状態に気が付くことができる能力を「共感性」といいますが、仕事が忙しくなると、他者に目を向ける余裕がなくなってしまい、共感性は失われがちになります。

この他者に対する共感性が、マインドフルネスの実践で高まることが分かっています。マインドフルネスが共感性の中枢である脳内ネットワーク「SN」※を発達させることで、自分の内側から湧き起こる感覚をとらえる能力と、外から入ってくる情報をキャッチする能力がともに高まります。すると、他者の気持ちや考えを受け止めることができるようになるわけです。

また、このSNは情報の取捨選択も司っているため他者の気持ちに合わせた、適切な言動の選択も高まるように。ネガティブな情報を他者からぶつけられた時にも、動揺することなく、冷静に対処することができるようになるのです。修行を積んだ禅僧が動じにくくなるのは、このためです。

人の気持ちを汲むことがどうも苦手だ・・・という方は、マインドフルネスで他者への共感性を養うことが、対人関係をより良いものとする助けになるかもしれません。

※「SN(Salience Network:サイリエンス・ネットワーク)」とは
私たちの脳のネットワークには3つあり、一つはぼんやりとしていたり、過去や未来のことを意識しているときに働く「DMN:デフォルトモードネットワーク」、もう一つは仕事をしているときなど、明確な目的を見据えて外部の情報を処理する「CEN:セントラルエグゼクティブネットワーク」。そして、この二つのネットワークの両方を行き来してつなぐ役割を担っているのが「SN:セイリエンスネットワーク」です。いわば、自分の内側と外側の情報をつなぎ合わせて、必要な情報を取捨選択、整理整頓する働きを担っています。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医