マインドフルネスの話

1日数分の瞑想で脳ダメージを回復させる

ストレスで胃が痛くなったり、下痢をしたり、頭痛を引き起こしたりすることはよく知られていますが、実は、脳にも多大な悪影響を与えることはあまり知られていません。

ストレスを感じると身体はそれに対抗するために、心拍数を増加させたり、血圧を上昇させたりします。さらに、神経伝達物質の「ドーパミン」やストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」の分泌も促進され、これらが脳へ到達してその濃度が高まると、危険に備えるための情動や神経を強めます。その反面、人間らしい高度な思考を司る「前頭前野」の働きは弱まることになります。

こうしたストレスによる脳内変化が慢性化すると、脳では障害が起こり、海馬が萎縮するなど悪影響を引き起こすことがわかっています。ストレスによって記憶障害や不安障害、うつ病になるのは、こうしたメカニズムが要因の1つと言われています。

ストレスによるダメージから脳を回復させるひとつの有効な方法が、マインドフルネス瞑想です。マインドフルネス瞑想を行うことで、コルチゾールの分泌が穏やかになったり、海馬の体積が増大することがわかっています。呼吸瞑想を1日数分行うことで、脳の疲労を解消し、ダメージを回復させることが期待できます。

また、ウォーキングや軽いジョギングもストレス緩和に効果的です。これらの運動によって、脳の細胞を保護したり回復したり、脳神経細胞を増殖させる作用を持つ「BDNF(脳由来神経栄養因子)」の分泌が促されることがわかっているのです。これをマインドフルネスと組み合わせて実践するには、歩く速さでゆっくりとジョギングをしながら、足が大地をしっかりと踏みしめることに集中する「走る瞑想」が最適です。

脳のダメージを回復させる習慣として、取り入れてみてください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医