マインドフルネスの話

「断れない人」のマインドフルネス的処方箋

「すでに仕事が山積みなのに、また引き受けてしまった…」「本当は嫌だったけど、頼まれると断ることができない」。そんな悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。とても親切で優しい行為であるとも言えますが、あまりに自己犠牲の傾向が過度になると、倒れるまで働いてしまったり、うつや不安障害などの精神疾患を引き起こすことにもつながってしまいます。

この現象は特に医療従事者に多とされています。コロナ禍で過剰な労働の末、バーンアウトしてしまった医療従事者が多数いたのは、そのためです。

なぜ自分を犠牲にしてまで人の頼みが断れなくなるのかというと、自己肯定感が十分に備わっていないからかもしれません。自分を大切にする心、自分を許す心が欠如していると、人の頼みを断ることに対して罪悪感を抱いてしまい、自分を許せなくなってしまうのです。

仏教には、「自利利他円満」という言葉があります。自利とは自分の利益のために行動すること。利他とは他人の利益のために行動することです。つまり、自分のとってのよいこと、他人にとってもよいことは同じ、という意味です。ビジネスの場ではこれをよく「win-win ウィンウィン」といいますね。自分を犠牲にしても相手の頼みを聞いてしまうのは、「win-lose」の関係になってしまい、自分だけが利益を失う…ということになります。これでは相互にとっての「円満」にはならないということです。

自分を犠牲にしてまで、相手の頼みごとを受け入れることは、お互いの関係や状況をよくすることにはつながらないのです。

とはいえ、いきなりバンバン断ることは難しいでしょう。頼みごとをされたときに迷ったら、「少し考えさせてください」と、まずは時間の余裕を確保することだけ初めて見てください。そして、夜にはマインドフルネスの呼吸瞑想をして、その後に判断することをおすすめします。それを続けていると、徐々に自分と相手の状況を客観視できるように変わってきて、相互の利益を一致させる「合一性」が得られるようになるでしょう。

相手と同じぐらい自分を大切にする。そんな気持ちを取り戻すための方法として、ぜひ実践してください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医