マインドフルネスの話

会話がうまくなるマインドフルネス

人と話すことに苦手意識を持っている人は、少なくありません。それが、初対面の場合はとくに顕著で、誰もが人見知りになるのがデフォルトといってもよいでしょう。はじめて出会う対象には警戒心を持つのが、動物の本能ですから、それはごく自然なことといえます。

とはいえ、ビジネスパーソンとしては、そうもいっていられません。商談や打ち合わせをする上では、スムーズな会話は不可欠です。

うまく会話をするというと、途切れないように次々と話題を振ったり、にこやかにしたり…といったことを考えますが、実は、相手の心を開き、信頼を得るための会話術の一番のコツは、たった一つ「相手の話をひたすら聞く」ことです。

会話が苦手、という人のなかには、自分がどんな話をするかばかり考えてしまったり、相手の話をあまり聞いておらず、覚えてもいない人が多いのです。そのため、相手の話を途中で遮ってしまったり、相手が話した内容と矛盾することをいったり、スルーしてしまったりしがちです。そのために、話が発展せず、相手も何となく会話に違和感や反発心が生まれて、雰囲気が悪くなる…ということになります。

マインドフルネスの考え方を応用したコミュニケーション技法に、「マインドフル・リスニング」という傾聴法があります。相手が話すことに集中し、心の中でよくかみくだいて、相手が最も伝えたいと考えているであろう事柄を20秒程度にまとめて返すというトレーニングを行います。すると、相手は「自分の話をよく理解してくれている」と安心し、深い信頼を寄せるようになります。

これは、相手を理解して共感性を育むことにもつながるため、昨今注目される「EQ(心の知能指数)」を涵養してくれる可能性もあります。

「自分がもっとうまく話す」ことではなく、「相手の話に集中して聴くことで深く理解し、それを言葉にして表す」ことが、よりよい人間関係を広げていくことができるでしょう。ぜひはじめてみてください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医