マインドフルネスの話

「脱洗脳」のためのマインドフルネス

私たちは無意識のうちに、さまざまな洗脳を受けている。そう聞くと「へえ、そんなことがあるんだ」と何となく人ごとのように感じます。しかし、強弱あれど、実は誰もが何かしら根拠のない思い込みや価値観を無意識のうちに刷り込まれています。

例えば、両親から「男らしく(女らしく)しなさい」とか「勉強しないといい学校に入れないし、いい職業につくことはできない」といった考え方を幼いころから繰り返し教えられてきたという人は多いことでしょう。多様な価値観にある現代においては、これが不合理であることは分かっていても、無意識下に洗脳されていると「男らしくない自分はみっともない」とか「いい学校にいけなかった自分はダメな人間だ」といった劣等感を持ってしまいがちです。

または、上司から「定時に帰るなんてやる気がない」「長く働くほど頑張っている証」と指導をされたために、健康を損ねるほど働いてしまう人はめずらしくありません。そのために、うつ病や燃え尽き症候群になったり、過労で倒れてしまうことにもなりかねません。

生きづらさを感じていたり、不自由な息苦しさを感じていたりする人のなかには、こうした根拠のない非合理的な思い込みや価値観の刷り込みがストレスの原因になっていることはよくあります。

自分は不合理な価値観で自らの首をしめているのかもしれない…そんな疑問を持った時には、ぜひ一度、マインドフルネス瞑想を行ってみてください。マインドフルネスでは、「ありのままの自分で、今この瞬間生きる」「価値判断をしない」という価値観が最も大切なものと考えます。まずは、静かに呼吸瞑想を行った後、今持っている価値観について、そして、ありのままの自分について、静かに見つめなおしてみてください。「~すべき」といった善悪や、優劣で判断することはありません。その上で、自分らしく生きるうえで不要な価値観と判断したときには、静かに手放すことを考えてもよいでしょう。

それが、今現在の苦しい状況から抜け出し、これまで見えていなかった選択肢を広げるための一歩となるかもしれません。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医