マインドフルネスの話

相談ごとには「同情」ではなく「共感」を

「私は全然悪くないのに、あの人はまったく分かっていないのよね」「あいつのせいで、いつも自分が損をするんだよ!」

など、家族や友人から負の感情をぶつけられるような相談を受けたことがある人は、多いことでしょう。それがときどきであれば「うんうん」と聞くこともできますが、頻繁になると、どうしても受け止めきれなくなり、ぐったりと疲れてしまうもの。相手の負の感情の影響で、自分までも不快な気持ちになってしまうこともあります。

親切心から「いや、それはむしろこう考えたほうがいいと思うよ」「大げさに受け取り過ぎだよ」などとアドバイスをしてみたりもしますが、相手のほうは自分の意見を否定されたと感じて本来は関係のなかったはずの自分が火の粉を浴びることもあるでしょう。

そんなときには、「感情をいったん切り離す」というマインドフルネスの考え方に基づいた傾聴法が役立ちます。相手の話を聞いているうちにネガティブな感情や不快感が自分のなかで沸き上がったときには、それをそっと手放すために、まず軽く深呼吸を数回してみましょう。それから、「この人は、私のことを否定しているわけじゃない」と冷静に心の中でつぶやいてみるのです。

そして、相手の言葉に対しては「同情」ではなく「共感」の気持ちで接するよう心がけてみるのです。同情と共感は似て非なるものです。

例えば、相手が「こんなにつらいことがあった!」と伝えてきたとき、同情の場合は「それはつらいよね。相手が悪いよね」となります。相手の感情に自分の気持ちも重ね合わせた状態になります。時にはこうして相手の心になり替わって同情してあげることで、相手に安心を与えることもあるでしょう。しかしながら、いつもこうした同情的関りを繰り返していると、傾聴する側がネガティブな感情に取り込まれすぎて疲弊してしまう危険性があります。

これに対して共感の場合は「あなたはつらかったんだね」と穏やかに相手の状態を受け入れる関わり方となります。相手の感情に流されず、良し悪しの判断もしません。そのため、あなたの気持ちも乱されず、冷静さを保つことができるようになります。

相手の負の感情を表す言葉に対しては、いったん感情を切り離し、共感を示す。それが、あなたの気持ちを疲弊させずに相手にも冷静な心を取り戻してもらえる、上手な付き合い方のコツです。ぜひ、試してみてください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医