マインドフルネスの話

ストレスによる過食を防止するマインドフルネス

世界的な肥満人口は年々増加の一途をたどり、このまま何の対策もなければ、「2035年には人口の半数以上が過体重になる」(世界肥満連合)とも予測されています。

特に増えているのが若年層、特に低所得な国での肥満率です。若いころからの肥満は、糖尿病や高血圧など、様々な生活習慣病のリスクを高め、医療費の高騰を招きます。結果的に、さらに経済的な厳しさが加速する…といった負のループに陥ることにもつながるでしょう。

加速する肥満人口の増加を防ぐために、今、マインドフルネスが注目を集めています。食べ物を過剰に摂取することで食欲コントロールを喪失する状態は「摂食制御喪失(LOCE)」と呼ばれますが、このLOCEはストレスや不安などの感情的な問題が引き金となることが分かっています。そのため、過食行動へ進む前の精神不安定な状態を、マインドフルネス瞑想などを行うことで阻止しようという試みが、今、様々な研究施設で行われているのです。

その中の一つ、アメリカ・ラッシュ大学が行った研究では、公募された「ストレスで食事の状態が悪化し体重増加につながる心配がある」過体重の53名を対象に、6週間のマインドフルネストレーニングを実施したグループ、他の認知行動療法を実施したグループ、両方を併用したグループに分け、結果を分析しました。

結果、全グループがストレスによる過食行動を減少させることが分かりましたが、なかでもより大きな減少が見られたのが、両方併用したグループでした。併用グループは、短期的にも減少効果をもたらすことも分かりました。

過食に対する認知行動療法は、一般的には食事日記をつけたり、食べることに対する否定的な評価を減らしたり、過食の理由を認識するといったこと。事実をそのまま受け止め、認知するマインドフルネスの考え方とまさしくリンクしています。

つまり、認知の力を高める思考トレーニングを強化するとともに、マインドフルネスがもつストレス緩和の効果が相まって、こうした結果が現れたのでは、と予想できます。

「最近、ストレスで過食しているな」と感じた時には、マインドフルネスの呼吸瞑想を行うと同時に、食べたものをメモするといった、簡単にできる認知行動療法を行ってみてください。過度な過食にブレーキがかけられるでしょう。

参考:https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1471015314001135

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医