マインドフルネスの話

辛い記憶をケアするマインドフルネス

思い出すだけで気持ちがふさいだり、ちょっとした瞬間に記憶がよみがえって涙が出そうになったり。だれもがそんなつらい経験の記憶の1つ、2つを抱えているもの。それが数十年も前の子どもの頃の記憶にもかかわらず、今まさに体験しているかのような鮮明な感覚が生じる場合、「トラウマ記憶」になっている可能性があります。

こうしたあまりにもつらい記憶がトラウマとなり、生活に支障を生じている状態を精神医学的に「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」と呼びます。過去の記憶のフラッシュバックは、その原因となった体験と同じか、時としてそれ以上に辛い場合もあるとされています。

このトラウマから回復するために、近年欧米を主体としてマインドフルネスがPTSDの治療のひとつとして取り入れられています。

アメリカでは現在、数多くの施設でPTSDの症状を持つ退役軍人に対して、マインドフルネス瞑想が導入されています。結果、向精神薬の量を削減または中止することができた、症状をうまくコントロールできるようになったなど、 症状が軽減された報告が数多くあり、マインドフルネスが効果的であることが示唆されています。

マインドフルネスは、「あるがまま」を静かに観察する状態をつくります。実践者は、観察する対象に対して思考や感情が生じてもそれをあるがままに受け入れるように努めます。そして善悪の判断することなく、静かに「今ここでの体験」を見つめることが少しずつできるようになってゆくのです。

つらい記憶がよみがえったときには、静かに目を閉じ、自分の心や体の「いま、あるがまま」の状態を静かに観察してみてください。その繰り返しが、徐々に辛さを軽減することにつながるでしょう。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医