マインドフルネスの話

仕事に追われたときの「ペンディング方式」

複数の仕事を同時に行うマルチタスクが当たり前になった現代社会は、多くの方がたくさんのタスクを抱えるようになりました。

生産性を高めるための効率化やオフィスのIT化でどんどん仕事の処理スピードは高まってはいるけれど、人間の能力がそれに十分に追いついているかというと、なかなかそうとも言い切れないでしょう。逆に、加速するマルチタスクに疲弊しきっている現代人は、非常に多いといえます。

心理学的には、マルチタスクの状態が長期間続くことは、あまり望ましくありません。例えば、A、B、Cの3つの仕事を同時に進めようとなった場合には、AをやればBをやっていないことが気がかりとなり、Bをやれば今度は途中まで手を付けたAと、まったく手を付けていないCのことが不安になったりするものです。集中力が続かないのでまったくはかどらず、結局、3つとも終わらないまま気力だけが失われていく……といった状態になりがちです。

こういうときには、「ペンディング方式」がおすすめです。最優先にすべき作業に全集中すると決め、そのほかの課題は「ペンディング(保留)」にして、頭の中と目の前から追い出しておくのです。

ポイントは、最初にきちんと優先順位を決めておくこと。紙にやるべきことを書き出し、それに優先順位の順番を振ります。そして、それぞれに「〇月〇日〇時まで」と締め切りの期日も書き出しておきましょう。そして、優先順位の高いものから取り組みます。

不安や焦燥感は、先の見えなさからやってくるもの。こうしてきちんとタスクと期日と順番を書き出すことで、先の見通しが立つようになります。すると心が定まり、落ち着いて目の前の仕事に取り組む集中力を高める効果が得られます。

たくさんの仕事に押しつぶされそうになった時には、ぜひこの「ペンディング方式」を試してみてください。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医