マインドフルネスの話

「刺激依存症」に有効なボディスキャン

「いつもだるくて疲れがとれない」「頭がいつもぼんやりしていてやる気がでない」。
そんな「何となく不調」が長期間続いているケースでしばしばみられるのが「刺激依存症」です。

刺激依存症といっても、特定の病気のことを言っているのではありません。常に刺激を追い求めてしまうという心の在り方を分かりやすく表現した造語です。情報過多社会のなかで絶え間なく注がれてくる情報をはじめ、リアルなゲーム、多種多様なギャンブルなど、「刺激性のツール」に常に囲まれている私たちは、刺激に対して感覚が麻痺し、無意識にその要求水準をどんどん高めています。
そして、知らず知らずのうちに刺激に慣らされていることから、自らの心身の繊細な変化や不調に気が付くことができなくなっている人が、少なくありません。

ちょっとした体の痛みや違和感だけでなく、いつもなら気にならない程度の言葉が気になったり、イライラしたり、気持ちが沈むといった心の変調は誰にでもあるものです。しかし近年、こうした心と身体の状態の微細な変化に気づいていない人が増えつつあるとされています。そしてそれは、「刺激依存症」によって引き起こされていると想定されるのです。

刺激依存症を放置すると、ますます心身の不調は悪化して、うつ病や自律神経失調症を発症することも。そうなって病院を受診し、医師から指摘されてはじめて、ずっと前から自分の心身に不調があったことに気が付く人が多いのです。自分自身の状態を細かく知ることができなくなっているという、現代人特有の心の性質が垣間見えます。

この状態から抜け出すためには、まずは自分自身の体の変化に気付く「ボディスキャン」が有効です。ボディスキャンとは、自分自身で頭のてっぺんから足先までをスキャニングするマインドフルネスの実践法のひとつです。

静かな環境で仰向けになり、頭に重みがあるか、痛みはないか。顔や耳、首に違和感はないか……といった調子で、肩、胸、おなか、腰、ひざ、脚へ意識を動かしながら、丁寧に各所の感覚を探っていきます。すると、「首が張っている」「腰に違和感がある」といった気づきが得られます。今度はそこに意識を集めながら、呼吸瞑想を行いましょう。

これを繰り返すことで「何となく不調」の正体が、はっきりと意識できるようになってきます。体と心は一体なので、身体の違和感を呼吸で整えていく意識を繰り返すことで、心も徐々に整い、落ち着きを取り戻すことができるはずです。
1日の終わりの習慣にすることをおすすめします。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医