マインドフルネスの話

自分を幸福感で満たす「感謝の瞑想」

「イライラ、ムカムカとしたささくれだった気持ちの一日だった…」。そんな日も、ときにはあるものですが、それで一日を終える状態は避けたいものです。
「自分は世界一不幸な人間なんじゃないだろうか…」「誰ひとり理解者がいない孤独な人間だ」などと、どうしてもネガティブな思考にとらわれてしまいます。

そんなときにぜひ実践してほしいのが、「感謝の瞑想」です。

やり方は非常に簡単です。まずは静かに目を閉じ、深呼吸をしてから、しばらくの間呼吸に集中する「呼吸瞑想」を行ってください。その後に、自分の子ども時代にさかのぼって、お世話になった人、喜ばせてくれた人、楽しませてくれた人、一緒にがんばったり励ましてくれた人の顔を思い出してください。両親や兄弟、親類やご近所の人、学校や習い事の先生や友だちなど、たくさんの人の顔が浮かんでくることでしょう。

その一人一人に「〇〇してくれて、ありがとう」と心の中で感謝の言葉をかけていきます。「一生懸命勉強を教えてくれて、ありがとうございました」「悪いことをしてしまったとき、真剣に叱ってくれて、ありがとう」「毎日、おいしい食事をつくってくれてありがとうございました」「笑顔でいってらっしゃいといってくれて、ありがとうございました」
小さなことから印象深い出来事など、なんでもかまいません。思い出せるだけすべて思い出し、全てに向けて感謝を言葉で表していきましょう。

すべて終えたら、今度は今現在の周囲の人に向けて、同じように感謝の言葉をかけていきます。会社の同僚、上司や部下、仕事先の人たち。いつも行くお店の店員さん、配偶者や子たちへ向けて、感謝していきます。

最後に、自分自身に向けて感謝の言葉をかけてください。「病気もせず、仕事をがんばっているよね、ありがとう」といった具合です。とはいっても、自分に感謝するのは難しいという方も少なくないと思います。そこで、自分の「体の一部分」に対象をしぼって感謝してみるのもお勧めです。
「食べたものをしっかり吸収してくれる胃腸、休まず動き続けてくれる手足、いろいろな情報を処理してくれる脳、周りのものをすべて見せてくれる眼…みんなみんな、ありがとう」といったかたちで、感謝していきましょう。

続けていくうちに胸があたたかくなり、優しい気持ちになり、穏やかで幸せな気持ちに変わっていくことが実感できることでしょう。自分の内側を幸福感でいっぱいにして、1日の最後を締めくくることができるはずです。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医