マインドフルネスの話

言葉にできない感情で苦しいときのマインドフルネス

多種多様なストレスが押し寄せてきたとき、多くの人は心が混乱して、それについて一つひとつうまく対処したり、熟考することができなくなるもの。すると、目の前のストレスに対してただ逃げようとしたり、見ないふりをしたり…現実逃避の行動に走ってしまいます。

そして、それが長じると自分が今、怒っているのか、悲しんでいるのか、不安なのか…といった心の内側を観察する能力が失われ、自分自身の感情が分からなくなる「失感情症(アレキシサイミア)」と呼ばれる状態に陥ることがあります。

失感情症は自分の感情を認知することができないだけであり、感情が失われたわけではありません。そのため、自分自身は気が付かなくても、ストレスから心身の健康を害してしまうことは、普通の人と変わりないのです。知らず知らずのうちに、心身症(心理的負担が要因となって身体的な機能異常をきたす疾患)やうつ病、摂食障害を併発することも少なくありません。

自分の感情を言葉で表すことができない……そんなモヤモヤした状態になったときは、マインドフルネス瞑想を用いた内省を行うことが、解決の糸口になります。

静かに呼吸瞑想を行い、心身を静かに整えたあと、自分自身のことをゆっくりと観察します。自分は今、本当はなにをやりたいのか。自分にとって幸せな状態とはどんな状態なのか。もう一人の自分が空の上から自分自身を眺めているとしたら、自分はどんな状態にあるのだろうか、と客観視するのもいいでしょう。すると、徐々に自分のなかにある感情に気が付くようになります。そうしたら、今度はその感情を否定したりせず、「ああ、自分はそう思っていたんだな」とそのまま観察します。

これを繰り返すことで、徐々に心のモヤモヤは晴れていきます。そして、ストレスが次にやってきたときに、自分はどうすればよいのかといった対処法も見えてくることでしょう。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医