マインドフルネスの話

コミュニケーション能力を高めるマインドフルネス

うっかりと傷つけるようなことを言ってしまったり、相手の言葉になんと答えていいか分からなくて黙り込んでしまったり。もっとうまくコミュニケーションを取りたいという気持ちはあるのに、うまくいかなくていつも空回りしてしまう……そんな悩みを持つ人は少なくありません。

繰り返すうちに、人付き合いに苦手意識を持つようになってしまい、さらにコミュニケーション下手になっていく人は多いものです。

人間関係の苦手意識から抜け出すために、マインドフルネスが助けになる。そんなことを示す研究をひとつ、ご紹介しましょう。アメリカのロチェスター大学が行った、70人の医師を対象とした研究です。

参加した医師たちは8週間のマインドフルネス瞑想を実践し、その前後で燃え尽き症候群(ストレスから意欲を失ってしまう症状)や共感、誠実さといった性格要素、感情の安定性などのレベルをスコア化、分析が行われました。

結果、瞑想実践後は医師たちの燃え尽き症候群のレベルは減少し、共感や感情の安定性が増加していることが確認されたのです。

共感のレベルが上がれば相手の感情や立場を考えることができるようになるでしょう。感情が安定すれば、常に冷静に対応できるので、怒りや悲しみといった一時の強い感情から出てしまった言動に後悔することもなくなります。

さらに、マインドフルネスでは「いま、この瞬間」に意識を向け、客観的に「俯瞰の目でただあるがままを観察し、判断しない」状態を目指します。自らが主観的に相手を見ている状態から、自分と相手の双方をもう一人の自分が離れたところから見つめている「第三の視点」を持つことで、冷静で適切な言動がおのずとできるようになることが、多くの実践者により経験されています。

もし、今日の友人との会話を後悔しているとしたら、まだ遅くありません。マインドフルネスの呼吸瞑想を実践し、そのあとで今日の自分と相手の様子を「第三の視点」で見つめながら会話を思い出してみてください。明日、友人にどんなメッセージを送ればよいのかが、見えてくることでしょう。

参考:https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/184621

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医