マインドフルネスの話

ネガティブ感情が心を強くする

「いつまでも泣くのはみっともない」「怒ったりイライラするなんて人間ができてないからだ」「小さなことでクヨクヨするなんて心が弱い」。
小さなころ、泣いたり怒ったり不安を抱えたりすると、そんな言葉を親や教師から言われたことがある人は多いことでしょう。悲しみ、怒り、落ち込みといったネガティブ感情に対しては、否定的な受け取りをするのが一般的とも言えます。

しかし、喪失に対して悲しいと感じたり、理不尽なことに対して怒ったり、未知のことや場所に対して不安を抱くことは、生き物としては当然のことといえます。なくなると悲しいから大切にしたり、怒ることで危険を遠ざけ、不安だから備えることができるわけです。
ネガティブ感情は、いわば自己防衛本能から湧き出る自分を守るためのしくみだったり、自分の状況を気付かせてくれるサインでもあります。

そのため、ネガティブ感情を押し殺しなかったことにしようと蓋をすると、危険に身をさらしたり、理不尽な状況にこらえきれなかったりして、心身の健康を損なうことにもつながります。体を壊すまで仕事をしたり、過度のストレスで心を壊してうつ病になったりするケースは、こうしたことから起こります。

そのため、昨今話題になっている、心の回復力を高めるための「レジリエンス教育」では、ネガティブ感情を否定せず、ありのままに受け止めることを学びます。
「こんな感情を持ってはいけない」という考えは捨て、ネガティブ感情も「当たり前に持っていてよいもの」と認識しなおします。
その上で、「なぜこんなに怒りを感じるんだろう」「自分が不安に感じるのはどんなときだろう」と静かに自分自身を見つめるうちに、ネガティブ感情を引き起こす自分の「トリガー(引き金)」に気付くようになり、その対応方法も徐々に見えてくることでしょう。

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医