マインドフルネスの話

抗不安薬と同じレベルの効果が実証されたマインドフルネス

常に頭の中は不安でいっぱいで、夜も眠れない。食事も喉を通らない…
そんな不安症の人は、特に日本人には多いといわれています。一度その状態に陥ると、「そんなに不安がることはない」「考えてもしかたない」と理性で分かってはいても、なかなか意思の力で抜け出すことは難しいのがやっかいなところです。

そんな病的な不安感を緩和するのが、抗不安薬。日常生活に支障が出るほどの強い不安や緊張を和らげるために、中枢神経に働きかける処方薬ですが、眠やふらつきの副作用、耐性(常用することで効果が弱くなり、より多くの服用が必要となる現象)の問題、さらには乱用による依存のリスクなど、服用には一定の注意が必要です。

近年は抗不安薬に代わって、「SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)」という抗うつ薬の開発が進み、不安障害の薬物療法においては第1選択薬となっています。SSRIは抗不安薬のように依存や耐性形成のリスクが少なく、長期に服用することが前提となりますが、より安全に薬物療法を受けることができるようになりました。しかしSSRIには吐き気、下痢、眠気、性機能障害などの副作用が生じる可能性もあり、全く安全とは言い切れない側面もあります。

そもそも、副作用が全くない薬剤というのはその性質上あり得ないわけですから、「薬はちょっと抵抗がある…」という人も少なくありません。

そんな人にとっては朗報となるのが、昨今の研究で分かった、「マインドフルネストレーニングはSSRIと同程度の抗不安作用がある」ということでしょう。

ジョージタウン大学をはじめとするアメリカの医療チームが行った研究によれば、208人の参加者を、SSRIの一種である「エスシタロプラム」という薬剤を投与するグループとマインドフルネストレーニングを行うグループに分け、8週間後に不安感を評価したところ、どちらも同程度の不安レベルまで低下することが分かりました。

つまり、不安障害の標準的な治療法と比較したとき、マインドフルネスには同程度の効果があることが初めて示されたということです。
研究者は「精神科へ行くことがためらわれる人や、薬の副作用を避けたい人にとっては、マインドフルネスが従来の治療法よりも優れている可能性がある」と語っています。

研究で実践されたのは、呼吸瞑想やボディスキャンなど基本的な瞑想法を取り入れた「マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)」というプログラム。日頃から実践する習慣を持つことで、不安な考えが浮かんだ時にもそれを軽減してくれることが期待されます。
呼吸瞑想などのマインドフルネス瞑想を習慣化することで、「不安や心配で頭がいっぱい」という状態になることを防止するのに効果的であるということが、信頼性の高い検証で示されています。「自分は心配性かもしれない」と感じておられる方は、ぜひ今日から呼吸瞑想に取り組んでいただきたいと思います。

(※不安障害の状態によってはマインドフルネスよりも薬物療法の方が効果的、あるいは瞑想をおこなうべきではない場合もあります。通院中の方は必ず主治医に相談のうえ、瞑想を取り入れていただければ幸いです)

参考:https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/article-abstract/2798510?utm_campaign=articlePDF&utm_medium=articlePDFlink&utm_source=articlePDF&utm_content=jama.2022.23506

川野泰周
臨済宗建長寺派「林香寺」住職、精神科医